遺言書の意義

財産をどのように相続人に分配するのか、相続人以外の第三者に財産を渡したい等、遺言によって自分の意思を明らかにしておくことができます。
遺言がある場合、原則として遺言者の意思に従った遺産の分配がなされますので、紛争を事前に防止することが可能になります。

では、どのような場合に遺言を残しておいた方がいいのでしょうか?

[1]息子に事業を承継させたい場合
[2]妻に財産全部を残したい
[3]病気の子に遺産を残したい、生活が困らないようにしてあげたい。
[4]世話になった者に遺産を残したい
[5]家族には財産のことで争ってほしくない など。

遺言を残すには、いくつか気を付ける点があります。



Will ability遺言能力

遺言をするには、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力があればよく、民法はその基準を満15歳としています。

では、この遺言能力の有無は、どのように判断されるのでしょうか。 遺言者が、遺言の内容と効果を一応なりとも理解し、その実現を欲するに最低限必要な精神能力を有していれば十分と言われています。
過去の裁判例では、(1)精神医学的観点、(2)遺言内容の複雑性、(3)遺言の動機、理由、(4)遺言者と相続人・受遺者との人的関係等からその有無を判断しているようです。

*遺言能力の問題は、遺言者が亡くなった後、遺言の有効性をめぐって争いとなった場合、例えば遺言無効確認の訴えで問題とされるところです。


「相続コラム」 をご覧ください。

Significance遺言の方式

遺言には厳格な要式が求められます。民法は「自筆証書遺言」・「公正証書遺言」・「秘密証書遺言」の3つの方式を定めていて、いずれかの要件を満たさなければ、遺言は無効となってしまいます。実務上、よく利用されているのは、2つのタイプです。


自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が、遺言の全文、日付および氏名を自書し、これに押印して作成する遺言です。
*方式の緩和 改正相続法で、自書によらない財産目録を添付することができるようになりました。パソコンで作成した財産目録や通帳のコピーを添付するなどです。この財産目録の各頁に署名押印が必要です。

また、加除訂正するときは、変更個所を指示し、変更した旨を付記して署名し、かつ、変更個所に押印する必要があります。
自筆証書遺言は、誰にも知られずに簡単に作成でき費用もかからないメリットがありますが、方式不備で無効とされる危険性があり、偽造・変造されてしまう危険もあります。
相続開始後、家庭裁判所で遺言の検認を受ける必要があります。
「検認の手続き」 についてはこちら。
*法務局での自筆証書遺言の保管制度が始まりました。これによれば、偽造・変造のおそれがなく、また検認手続は不要です。

公正証書遺言

公正証書遺言は公証人が作成する遺言です。2人以上の証人の立会いを得て遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記して遺言者および証人に読み聞かせまたは閲覧させ、遺言者および証人が筆記の正確なことを承認した後に各自署名押印し、公証人が方式に従って作成された旨を付記して署名押印します。

遺言書の原本(署名押印のあるもの)は公証役場で保管され、遺言者には遺言書の正本と謄本が交付されます。遺言書の検認を受ける必要はありません。

この遺言は効力があるの?

遺言者の認知機能がかなり低下していた、遺言者の筆跡と違う気がする等の場合、遺言の有効・無効については、相続人間の合意で決めることもできますが、ここは利害が大きく対立する場面ですから、遺言無効確認の訴訟になる場合が多いです。

遺言の有効性に関する裁判所の考え判例紹介

遺言の内容(不倫関係にある者への遺贈)が公序良俗に反して無効か?
最一小判昭和61年11月20日(民集40巻7号1167頁)

妻との婚姻関係が破綻した後、事実婚の関係となった女性に対し、その面前で自筆証書遺言を作成し遺贈した事例。


裁判所の考え
本件遺贈は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく、もっぱら生計を遺言者に頼っていた被上告人(女性)の生活を保全するためにされた者というべきであり、また遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえないとし、本件遺言は民法90条(公序良俗)に違反し無効であると解すべきではないと判断しました。

コメント
事実婚関係にあった女性への遺贈を内容とする公正証書遺言のある相続事案を取り扱ったことがありますが、遺族年金に関し、法律上、その死亡者の収入によって生計を維持していた実態があれば、内縁女性に受給権がありました。本件判例は、この法律の考え方と同じような考え方であると思います。

自筆証書遺言の要件(自筆によると認めるに足らず無効とされた例
高松高判平成25年7月16日)

脳梗塞を発症し右半身麻痺の後遺症(文字を書くにも困難を伴う)が残った。発症から10年後に作成された自筆証書遺言の自書性が争点となった。


裁判所の考え
遺言作成時期前後の文書における筆跡と遺言書の筆跡を比対照し、種々の事情を認定した上で、「・・・遺言者の自筆によるものとは認めるに足りず、自筆証書遺言としての要件を満たさないから無効である」と判断した。

コメント
この種の事案では、当事者双方から筆跡鑑定の結果が提出されることが多いですが、「・・筆跡の鑑定は、科学的に検証を経ていないというその性質上、その証明力に限界があり、・」「・他の証拠に優越するような証拠価値が一般的にあるのではない」「・・事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできない。」との裁判所の考え(東京高判平成12年10月26日(判タ1094号242頁)があり 、本件の裁判例もこの考えに沿って、事案の総合的な分析検討をしたものと言えます。そして、自書性に関しては、遺言が有効であると主張する側に立証責任があります(最一小昭和62年10月8日(民集41巻7号1271頁)ので、この立証責任の分配に則って結論が導かれたものと考えられます。

Consideration for legitime遺留分への配慮

相続人の一人に家業を継がせたい、妻に財産全部を残したい、病気の子が困らないよう財産を残したい等、法定相続分と異なる内容の遺言作成の時には、遺留分への配慮が必要です。 一定の相続人には、法律で保障された遺留分があります。この遺留分は遺言によっても奪うことはできません。遺言を作成するときは、この遺留分に配慮しておかないと、相続人間で紛争になる可能性があります。
遺留分を侵害する遺言も有効ですが、最終的に遺言者の希望どおりの財産承継にならない場合もあります。

遺留分権利者が、遺言者の意思をよく理解してくれるようであれば、相続開始前に遺留分の放棄をしてもらうことも考えられます。

遺留分の放棄をするには
遺留分権利者は、相続開始前に家庭裁判所に申立をし、その許可を得て遺留分を放棄することができます。自営業の場合の資産が相続によって細分化されるのを防止したり、相続人間の紛争を事前に回避する等が目的です。
*家庭裁判所は、権利者の自由意思、放棄理由の合理性・必要性、放棄と引替えの代償の有無等を考慮して相当と認めるときは、許可の審判を出します。

Significance解決事例

自営業を長男に承継させたい

自営の事業を長男に承継させたいが、次男や長女には遺留分放棄をしてもらい争いの目を摘んでおきたい。合わせて遺言作成も依頼を受けた。


解決
長女や次男へ連絡をとり、事情を話して依頼者の考えを理解してもらい、家裁への申立ては、長女や次男ご自身で手続をしてもらい許可の審判が得られた。

コメント
申立てに先立ち、依頼者から長女や次男へ、一定額の生前贈与を行った。 許可審判が出された後、長男に全ての財産を相続させる旨の公正証書遺言を作成。

共有物分割訴訟での和解の条件・・・相続紛争を事前に回避したい

亡父の遺産である自宅不動産が法定相続分で共有分割され、仲の悪い兄弟姉妹数名が同居していた。依頼者からこの状態を解消したいとの依頼があり、共有物分割訴訟を提起。


解決
長女や次男へ連絡をとり、事情を話して依頼者の考えを理解してもらい、家裁への申立ては、長女や次男ご自身で手続をしてもらい許可の審判が得られた。

コメント
兄弟姉妹が多く、そのうちの何人かが同居(家庭内別居状態)されていましたので、皆殺気立っていて話をするのもなかなか大変な状況でしたが、母の相続の際は、争族問題が回避されると思います。

中西雅子法律事務所

弁護士 中西 雅子(東京弁護士会所属)
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